デジタルシフトへの潮流

DXが流行語になってしばらく経つ。その言葉に踊らされ、躍起になっている企業もあれば、何を今更という素振りで、着実にITを組み込んで成長している企業もある。
このようなIT投資に対する取り組みの差は、どこから生じるのであろうか?

事業に貢献する投資こそがITの価値

企業がITに対し投資判断をする際は、その投資を上回るだけの事業貢献が見込めることが定石である。
デジタル技術やITツールを導入することにより
・既存事業に新たな収入源を生み出せる。
・既存事業に新規の顧客を呼び込める、
・既存事業の既存顧客に効率的に販促をかけられる
・新規事業の基盤となりうる
・複数の既存事業をとりまとめる統合基盤となりうる
といったようなケースが当てはまる。投資額だけでなく、見込める貢献度合ももちろん数値化されるし、実施後はその検証も可能だ。

本来、上記のような取り組みの中でIT投資を行えばよいのだが、そうではないケースが散見されてしまう。
・何となく運営している公式サイト
・ダウンロード数が伸びないスマホアプリ
・使いこなせないマーケティングツール
・紙とデジタルが併用されている基幹システム
・効果が検証されないまま放置されているCRMシステム
このような例は、事業への貢献という目的に合致せず、維持費だけがかかってしまうケースだ。世間の流行りに乗って導入したものの、目立った効果は最初だけ。あとは会社のお荷物になってしまう。
DXが流行語となってからは、この動きがさらに加速化された。導入を急ぐあまり、事業への貢献どころか、とりあえず入れてみようといったIT投資が増えている。動機が緩いまま導入されたシステムは、まず使われない。維持費だけが嵩んでしまう結果となる。
IT投資に際しては、出来上がるシステムを徹底的に使い倒すくらいの覚悟で臨むことが強く求められる。

業種と販売形態の違いで見えるデジタルシフトの差

次に、事業にITを上手く組み込んでいる業種と、それが出来ていない業種、その違いを見ていくことにしよう。それは事業特性の一つである、販売形態で分類すると明らかになる。


事業とITが直結しているのは、リアルの店舗を持たずにネット上で商売をしている業種だ。オンラインゲームや健康食品・サプリメントなどの通信販売、ネット銀行・保険・旅行などの商品販売は、デジタルとITそのものが事業だ。常に最新の技術を取り入れながら、ネット上で、積極的なデジタルマーケティングに取り組んでいる。

次にデジタルシフトが顕著な業種は、リアルの店舗を持つメーカーやサービス業だ。自社商品の世界観をリアルとバーチャルの両方で体現するために、店舗デザインのみならず、ネット上での演出に積極的に取り組んでいる。その狙いは、消費者に自社店舗や自社ECサイトへの誘導だ。見込み客や熱烈なファンとのダイレクトコミュニケーションにも力を入れている。

直接店舗を持たず、卸経由で商品を製造しているメーカーは、未だ発展途上だ。単価の低い多品種の商品を扱う特性上、消費者との直接コミュニケーションにコストをかけることができない。旧来型のマスマーケティングに頼らざるを得ないのが現状だ。もちろんTVや新聞を見ない若者ユーザの取り込みは、ネットが大前提となるため、徐々にデジタルマーケティングに予算をシフトしてきている。

小売・流通業は、未だ足踏み状態だ。国内のネットビジネスで成功している企業は、ほんの少数で、多くは赤字だ。元々、薄利多売のビジネスモデルのため、ネット上で十分な利益が出る構造が築けにくい。給与水準が高くないことから、社内のIT人材が不足していることも悩みの種となっている。

法人向けの対面型ビジネス、社会インフラ系の企業、そして官公庁などは、最もデジタル化が遅れている。それは、旧来からの変わらないやり方の中に、ITという道具を組み入れているだけだからだ。都合の良いところだけにITが組み込まれているので、まだまだ紙とデジタルが混在している。人手を介さないと、次のプロセスに進まないことが沢山ある状態だ。

このように業種と販売形態で整理していくと、デジタルシフトの濃淡が見えてくる。事の本質は、事業の根幹のところでITが貢献できているかどうかに尽きる。
大手メディアが揶揄する「日本はデジタル化が遅れている」といった大括りの捉え方ではなく、一段階詳細に落として分析してみることで、正しい現状が見えてくる。

FIN.   August 20th, 2022