マーケティングと営業は、トレードオフにある

「マーケティングの究極の目的は、営業を不必要とすることである」(*1)
これはドラッカーの書籍の一文である。
営業職に就いている方々にとっては、不愉快な言葉だろう。これがどういうことを意味しているのか解説していこう。

マーケティングと営業はどちらも、企業の売上を最大化するための機能である

企業は、商品やサービスの販売を通じ、売上を立てることで成立している。その売上を最大化するために必要な機能が、マーケティングと営業だ。どちらの機能も、組織に人員を配置するが、通常、人数は営業部門の方が圧倒的に多い。営業部門は社内で人員を抱え、一人一人が売上目標を持って活動する。一方、マーケティング部門の人数は少なく、外部の人間を使う。メディア・制作・PR・Web・マーケティングツールなど、専門分野に応じて発注する。営業部門は人件費、マーケティング部門は外注費と広告宣伝費を、いかに最適化・効率化していくかが重要となる。
経営者にとって財布は一つだ。営業とマーケティングそれぞれに、どれだけの予算を割り当てるかという舵取りが必要となってくる。

マーケティング手段の多様化と低コスト化が、ビジネス構造を変えた

インターネットが台頭するまでは、マーケティング活動で出来ることは限られていた。マスメディアと言われるTV・新聞・ラジオ・雑誌を通じた広告宣伝、ポストに投函されるDMやチラシ、大人数を一度に集める展示会やイベント、店頭での販促、といった活動である。これらの活動では、本気で取り組むと数千万円から数億円もの費用がかかるため、資本力のある大企業だけが大きな恩恵を受けていた。資金のない中小企業は、チラシ・DM・看板くらいしか選択肢が無かったのである。
ところが、インターネットという世界共通のコミュニケーション基盤が確立して様相が変わった。企業はインターネットによるサービスや技術を活用することにより、消費者や顧客に直接情報を届けることが容易になったのだ。新規顧客を開拓することも、インターネットを通じて出来るようになった。それが低コストで実現できる。少ない人員で、かつ少ない設備投資で賄えるのだ。
多くの営業マンたちが汗を流し、苦労して活動してきたことは、インターネットを活用したマーケティング活動で代替できるようになった。マーケッティングと営業の関係が根本的に変わったのだ。


約20年前の2000年では、日本の営業職は968万人いた。それが現在100万人減って856万人となっている。(*2)

営業は無くなってしまうのか?

営業の担ってきた役割の一部が、マーケティングに移管されてきているのは上記に述べたとおりである。しかし、営業機能が全て不要になるということはまずありえない。売上最大化を目指す企業にとって、営業でしか担えない行為がある。

【最後のクロージング】
購入するものが高価であればあるほど、顧客は判断に迷う。悩む顧客の背中を、最後に一押しすることは営業にしか出来ない。

【信頼・信用を勝ち取る】
マーケティングを通して伝えられる情報は、概して販売する側の都合の良い情報である。営業による直接対話は、顧客の信頼を得る重要な手段である。

【付加価値をつける】
システム開発のあとの運用サービス、機械販売のあとのメンテンナンスサービスなど、製品とサービスをセットで売るような付加価値のある提案ができるのは営業の醍醐味である。

【ハードな条件交渉】
メーカと小売店との販売条件の交渉や、元請と下請との契約交渉など、ハードな条件交渉においては営業の高度なスキルが試される。
 
【紹介による新規顧客開拓】
顧客の厚い信頼を勝ち取ると、自然と新たな顧客を紹介されるようになる。紹介顧客との間は、既に信頼ベースのもとで商談を進められるので安定した収益基盤の源となる。

求められるのはプロフェッショナル

顧客は、簡単にネットを通じて情報を得ることができる時代である。御用聞き営業は、不要となった。顧客は営業に対し、的確なニーズ把握と課題解決できるだけの提案力を求めている。
一方、マーケティングにおいても、次々と新しい技術を活用した製品やサービスが台頭している中、顧客は、その技術に精通し、かつ顧客のニーズに適したサービスを提供できることを求める。
両者に共通して求められるのは、プロとしての高いスキルだ。マーケティングのプロフェッショナル、そして営業のプロフェッショナルこそが、必要とされる時代である。

FIN.  November 20th, 2022

*1: Peter F Drucker, “The aim of marketing is to make selling superfluous” (The Essential Drucker)
*2: 総務省統計局 労働力調査2021年より