概念化する力 - コンセプチュアルスキルを養う

日常で起こっていること、見聞きしていることは、全て具体的な事象だ。それらの具体的な事象を、汎用的かつ一般的に使えるよう抽象的な言語にすること、それを概念化という。哲学者や言語学者にとって概念化は必須のスキルだが、ビジネスにおいてもそのスキルは極めて有効だ。
概念化という言葉を知らずとも、そして意識をせずとも、実践の場でその力を発揮しているビジネスプレイヤーは至るところにいる。では、概念化できるスキルを持つ人たちは、どんなことができるのだろうか。解説していくことにしよう。

概念化する力 - コンセプチュアルスキルとは

ビジネスの世界では、概念化する力をコンセプチュアルスキルとも呼んでいる。コンセプチュアルスキルという言葉は、1950年代に経済学者ロバート・L・カッツが提唱した*。ネット上ではいくつかの解説が存在するが、当時から比べると現代は、社会環境や経済情勢がより高度で複雑となっている。筆者は現代ビジネスに適した表現を使い、改めてその考え方の整理を行った。
概念化する力-コンセプチュアルスキルとは、三つの能力を兼ね備えることである。
1. 本質を捉える能力
2. 抽象化する能力
3. 言語化する能力

本質を捉える能力

2023年2月、東京都に大雪警報が出た。TVはどのチャネルでもその報道をしている。しかし蓋を開けてみると、大雪は西側だけで東側の都心部は雨だった。するとマスコミ各社は、八王子に向かい、大雪をライブ中継した。それを見た地方に住む人たちは、東京中がどこも大雪だと思い込んでしまった。これは実際にあった話である。
本質を捉えず、一部の情報だけに基づいて間違った判断をしてしまう例だ。この例を使って、本質を捉えるとはどういうことか解説していこう。
まず、東京中が本当に大雪なのか?と疑ってみることだ。これには批判的な視点が必要となる。
次に思い込みを捨て、客観的な視点で地図を思い浮かべてみる。八王子は内陸で山も近い。海に近い都心に比べ、冷え込みが厳しいことが想像できる。
最後に、違う立場、マスコミの側に立って考えてみる。彼らは、視聴者をTVの前に釘付けにして視聴率を上げたいはずだ。だから、雪が降っている場所を捜し出し、大げさな映像を流し続けている、といったことが推測できる。
このような物の見方が、本質を捉える能力だ。この能力は、「批判的な視点」「客観的な視点」「多面的な視点」これらの三つの視点で物事を考えていくことで養成できる。

抽象化する能力

抽象化の解説には、業務マニュアルと方法論(メソッド)の違いが分かりやすい。どちらもビジネスの現場で使われているもので、似ているように思えるが、全くの別物である。
業務マニュアルは、特定の仕事の進め方を事細かに記載した文書だ。誰がやっても同じ結果になるように、業務の遂行に必要な一つ一つの動作が記載されている。従って、仕事の中身が変われば、業務マニュアルは改めて一から作られることになる。
片や方法論は、仕事の手順及び、アウトプットに必要なフォーマットが記載されている文書である。要は、仕事の「型」が定められていると思えばよい。例えば、アプリの開発では、通常、方法論を活用する。出来上がってくるアプリは千差万別だが、方法論を適用することで抜け漏れを防ぎ、一定の品質を担保できるのがメリットだ。
ビジネスの現場では、一つ一つの仕事の中身は違えども、類似の仕事を繰り返し行っている。方法論は、類似の仕事から共通要素を抜き出して、汎用的に使えるよう「型」にすることだ。これこそが抽象化の実践である。アプリ開発の例では、多くのSEやプログラマーが方法論を活用してシステム開発していく訳だが、方法論を活用すること自体は、抽象化の実践とは言えない。万人が使えるような方法論を生み出した人こそが、抽象化を実践したと言える。

抽象化には、新しいものを生み出すための「探求する力」、全体を見る「俯瞰する力」、そして要素を組み立てていく「構造化する力」の三つの能力が求められてくる。

言語化する能力

コンセプチュアルスキルの三つ目、言語化する能力を解説しよう。
これは、抽象化されたぼんやりしたもの、頭に浮かぶイメージを言葉にすることができる能力のことである。ぼんやりしたイメージを言葉という形にし、「要は何か」ということを一つの文体で表現できることだ。
誰もが理解できる言葉で、簡潔に表現することは意外と難しい。意識して日々訓練しておかないと、どうしても回りくどい表現になりがちだ。逆に、短い表現で言い切れればいいということでもない。一つ良くない見本を挙げよう。時の首相は、「新資本主義」 「異次元の少子化対策」といった標語を打ち出している。しかし、多くの批判を浴びているように、蓋を開けてみると中身が伴っていない。言葉だけが宙に浮いて、空回りしている状態だ。言語化するということは、誰もが理解してこそ真価が見えてくる。
言語化には、固定観念に捉われない「発想力」、イメージを形にする「構想力」、そして言葉を使いこなす「語学力」の三つの力が必要となる。

コンセプチュアルスキルを体得して世界で通用する人材になろう

我々日本人にとって概念化は、欧米の人たちに比べると一般的に苦手な行為だ。
英語は、名詞の前に冠詞の”a” “an”もしくは”the”を付けるが、日本語に冠詞は存在しない。” a” “an” は概念化された対象物を指すときに使い、” the” は具体的な対象物を指すときに使う。この使い分けに苦労した経験のある人も多いだろう。実はこれらを使い分けて話すことは、概念化の基礎トレに打ってつけだ。英語を母国語とする人たちは、概念化など意識せずとも” a” “an” と “the” を使い分けられるから羨ましい。
また、民族や文化の多様性の違いも概念化に関わってくる。考え方や慣習の違いがあると、言葉で明確に表現しないと自分の意思は伝わらない。概念化の一つ、言語化する能力が大きく求められてくる。ところが日本では、不文律、暗黙知、忖度といった表現があるように、言葉にしなくても伝わる環境が至るところにある。
世界中で活用されているITの製品やサービスは、欧米のものが圧倒的に多い。GAFAを筆頭に、Microsoft・SAP・Oracle・Salesforce・Adobe等々。これらの企業は、世界中で自社の製品が活用されることを前提にして、製品の構想段階から概念化の能力をフル活用している。
片や、日本のITシステムは、ボトムアップで個別の要望に合わせて作ってしまう。当然、他では使えないため、似たようなシステムをまた一から作ってしまうことになる。政府や自治体のITシステムがその典型だ。それぞれの組織で独自にシステムを作る。似て非なるシステムが、日本中に散在している状態だ。開発を請け負うNTTデータや富士通・NECといったITベンダーにとっては儲かる商売の構図である。しかし、其処には創造性や生産性といった要素は皆無だ。
上記のITビジネスの違いから分かるように、概念化の力が無くとも、個々の仕事をすることにおいては問題がない。しかし、大きな仕事、世界で通用する仕事をしようと思えば、概念化する力は必須となってくるはずである。

FIN.  February 19th, 2023

* Revert L Katz: Skills of an Effective Administrator (Harvard Business Review)