ChatGPTの衝撃

AIの進化が凄まじいことを見せつけられた。2022年11月に公開されたChatGPTである。公開後わずか2か月で、ChatGPTのアクティブユーザー数は世界で1億人を超えた(*1)。Instagramが1億人ユーザーに達するのに2年半を要したことを踏まえれば、その反響の大きさが分かる。

ChatGPTとは何か

ChatGPTの解説はネット上に数多くあるので、ここでは詳細な説明は割愛するが、要はチャットボット(人間とコンピューターとのやり取りを人間同士の会話のように言語化する機能)のAI進化版だ。これまでのチャットボットは、ブラウザ下部に表示される初心者向けの補足的なサービスにすぎなかった。ITを使いこなしている人たちにとって、チャットボットは邪魔で、うざったい産物に過ぎなかったはずだ。ところがそのイメージを一掃するかのごとく、ChatGPTは劇的な進化を遂げた。
どれだけの進化というと・・・Excelのピポットテーブルを作ってくれる、プログラムのソースコードを生成してくれる、データの間違いをチェックしてくれる、議事録を作成してくれる、文章の要約をしてくれる、出されたテーマに対しアイデアを出してくれる。このようなことを、我々人間のリクエストに応じて、いとも簡単にやってくれるのだ。それも上司と部下のような会話形式の自然体で。
中身をよく見ていくと、現段階では一部の間違いや表現の甘さがある。それに加えて、目新しさや創造性といったことには欠ける。
しかし、それは現段階の話であり、改善していくのも時間の問題であろう。現状のChatGPTレベルでも、コンサルティング業界の下手な新人コンサルタントに比べれば、AIのほうが優れているかもしれない。それくらいのレベル感がある。
ChatGPTに代表されるAIが、これから我々にそして社会に対し、どんな影響を及ぼしていくのだろうか。考察してみよう。

我々は既にGoogleに毒されている

仕事をする上でPCが欠かせなくなったのと同様に、ブラウザ上の検索エンジンも必須のアイテムとなった。検索エンジンの世界のシェアはGoogleが93%を占め、圧倒している(*2)。日本のシェアはGoogleが78%、Yahooが15%である。Yahooの検索エンジンはGoogleを採用しているから、世界同様、日本でも実質9割以上のシェアをGoogleが握っていることになる。
これだけのシェアを世界中で獲得しているわけだから、いかに優れたツールであるかといことは言うまでもない。しかし、皆さんご承知のように万能ではない。
筆者も調べものをする際にはGoogleを活用している訳だが、必然的に検索結果が上位にあるものから見ていくことになる。ここで上位に出てくる内容が、あたかも正しい情報であるかのような錯覚に陥ってしまう。
Googleマップも便利なツールだ。カーナビに搭載された地図情報よりも圧倒的に正しい情報を表示してくれる。しかし、それでも万能ではない。Googleマップの指示通りに車を運転していたら、車ごと海に飛び込んでしまったという事例があるくらいだ。
我々は、便利なものに慣れてしまうと、それが当たり前のようになって無条件で受け入れてしまいがちだ。意識しようが無意識であろうが、我々は既にGoogleの世界にすっかり嵌まってしまっている。

AIが人間の創造性を侵食する領域に入ってきた

その巨人Googleをも慌てさせたのが、ChatGPTの台頭だ。
検索エンジンは、調べる時間の短縮につながる便利なツールに過ぎない。提示された検索結果から、どれを選び、どのように使うかという判断自体は、私たち人間に委ねられている。
ところがChatGPTは、回答そのものを返してくる。私たちは考える必要が全くないのだ。発展途上段階のChatGPTであるが、すぐに使える用途としては、大学のレポートだろう。教授から出される課題に対し、ChatGPTに問いかければ、すぐにレポートの原案を作成してくれる。考えることを学ぶのが大学であるが、それをやらずに済ませる学生が、これから増えてしまうことが懸念される。
ChatGPTに限らず、AIはビジネスの領域でも使われ始めている。
例えば、自動販売機の缶やペットボトルの補充だ。売れ筋の商品をどこに配置するか、そして品切れをなくすためにどのくらいの頻度で補充するか、こうした売上を最大限にする活動は、ルートセールスと言われる作業員たちの勘と経験に頼ってきた。ところが今や、AIが商品の棚割り付けと補充タイミングを指示している。ルートセールスは余計なことは考えず、AIの指示通りに自販機を廻ることが求められている。
AIは、学生の人気がある大手企業の採用活動でも使われている。何千人ものエントリーシートからの一次選考をAIが行い、面接においてもAIが動画解析を行って合否判定を出している。
さらには、ビールや缶チューハイの商品開発にもAIが使われ始めた。無限にある原料や配合の組み合わせから、AIが新商品の提案をする仕組みである。
これまで私たちが智を結集し勝負してきたビジネスの領域が、AIによって次々に侵食されてきているのである。

私たちは考えない葦になってしまうのか?

ChatGPTの台頭により、AIの開発競争はますます激化するだろう。そして、AIはこれから私たちの身近な存在になっていくはずだ。身近になるということは、便利さが増すということであり、それは考えずに済むことが増えることにつながる。
私たちは考えなくても生きていけるし、楽しめる。その通りだろう。
しかし、それが本当に幸せなのかということになると、話は別ではないだろうか。
AIとの付き合い方を、まさに考える時期が到来したと言える。

FIN.  March 5th, 2023

次回は、「AIとの付き合い方」をテーマにした記事を投稿予定です。

*1: Reuters 2023年2月公表記事
https://www.reuters.com/technology/chatgpt-sets-record-fastest-growing-user-base-analyst-note-2023-02-01/
*2: Statcounter統計資料 2023年2月現在
https://gs.statcounter.com/search-engine-market-share